特集 秘密保護法
有名ジャーナリストたちの遅すぎた行動は、大手メディアの重い腰、及び腰を見事に象徴していた。
取材・報道の自由が制限されるとして、特定秘密保護法案に反対する鳥越俊太郎氏などのジャーナリストが11月11日、「TVジャーナリストらによる『特定秘密保護法案』反対会見」を開いた。
登壇したジャーナリストらは、それぞれ秘密保護法の危険性について語った。
警察関係の取材を続けてきた元共同通信記者でジャーナリストの青木理氏は、「警察関連の情報のほとんどが特定秘密にされてしまいかねない」とし、「自信を持って言えるが、この法律ができれば、数年前に書いた公安関係の書籍も書けなかっただろう」と話した。
元読売新聞社社会部記者の大谷昭宏氏は、21条の定める「共謀・教唆・扇動」の処罰規定について危機感を示す。「時の権力は『悪いようにはしない』というが、何年か経てば見事に引っ掛けてくる。それが常道。とてもじゃないがこの法律は通せない」。
秘密保護法案について田原総一朗氏は、「問題は大きく分けて二つある」と前置きし、「一つはマスコミが取材をできなくなること。もう一つは、これをチェックする機関がないこと。どこの国でも20年、30年で全部(情報を)公開する。ところが、(日本では)内閣が承認した場合は、永遠に公開しない。こういうばかばかしい法律はあってはいけない」と語気を強めた。
TBSの「報道特集」でキャスターを務めている金平茂紀氏は、「長いこと取材を続けてくると、政府はこれまでも嘘をついてきたし、おそらく、これからも嘘をつくだろうと思う」という。
さらに、「腹に据えかねるのは、『西山事件は処罰対象』と、担当大臣が言っていること。西山事件は外務省の機密漏洩事件だが、あの事件の本質は、『沖縄の返還に絡んで政府が密約を結んでいた』こと。そして、『密約はない』と国民に嘘を付き続けていたこと」と主張。「『西山事件は処罰対象になります』と軽々しく言うような人たちがこの法案を作っているということに対して、心の底からの憤りを感じる」と怒りをあらわにした。
鳥越俊太郎氏は「安倍政権が求めているのは秘密保護法だけではない。NSC法案を司令塔に秘密保護法を用い、最終的には集団的自衛権の行使に踏み切る」と断言し、「積極的平和主義という言葉は一見いいことに聞こえるが、これは実は『戦争するよ』ということ。日本のレジームを『戦争ができる国』に変えることが、今回の法案の背景にあることを見抜いて、国民全体でこの法案に反対しなければならない」と語った。
しかし今月7日、NSC設置法はすでに衆院を通過し、秘密保護法は国会に上程された。
「(反対表明は)遅きに失したのではないか」――。
質疑応答で、フリージャーナリストの田中龍作記者が指摘した。田原氏は「今月の朝まで生テレビは、この問題をまともに取り上げます。(テレビの)上が何と考えようと朝生はまともに取り上げます」と回答。しかし、田原氏のいう「朝生」の次回放送は月末の11月29日。あまりに悠長ではないか。
毎日新聞特別編集委員の岸井成格氏は「ずっと取り上げてきている」と田中記者の指摘を否定し、「反省するとすれば、通ると思えなかったこの法案が、もしかしたら通るかもしれない、という感覚のズレ」と返答した。しかし、なぜ「通ると思わなかった」のかも疑問だ。
また、メディア人の集まりであるとは言え、鳥越氏以外の登壇者らは「報道の自由を侵害する懸念」に言及するのみで、「戦争のできる国への一歩」「米国へのさらなる隷従」といった秘密保護法案の本質には一切触れていない。
それどころか、岸井氏に至っては「おそらく、最初は米国との軍事情報に限られた話だったのだと思う。しかし、そこへいろいろなものが入ってきて、どんどん一気に悪乗りしてこういう法に作ってしまったという感じがする」と述べ、米国への配慮として作るぶんには問題のない法律であるかのような見解を示した。
また、残念ながら、この日の会見で登壇者らが指摘した「秘密保護法の危険性」のことごとくが、すでに数年前から憲法学者や法律家が指摘してきたことであった。なぜ、今頃になって有志で集い、法案成立に反対を表明したのか。
やはり「TVジャーナリスト」らの警鐘は遅きに失したと言わざるをえない。こうした、TVを代表するジャーナリストらの危機感の欠如こそが、大手メディアの重い腰、及び腰といった報道姿勢そのものの象徴なのではないだろうか。(IWJ 原佑介)
・会見者 田原総一朗氏、鳥越俊太郎氏、岸井成格氏、田勢康弘氏、大谷昭宏氏、金平茂紀氏、青木理氏、ほか
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