「ジャーナリズムは、個性を持った記者同士がぶつかりあいながらやっていく、もっと人間臭いものであったはず」
「日隅一雄・情報流通促進基金」の設立2周年を記念するシンポジウム「朝日新聞バッシングと戦争への道 ―開戦記念日に考える」が12月8日(月)午後6時45分より、日比谷コンベンションホールで行われた。
今年2014年8月の従軍慰安婦報道をめぐる朝日新聞へのバッシングが記憶に新しい昨今、「戦争できる国」づくりを進める安倍政権による、自由な言論活動への悪影響が懸念されている。こうしたなか、特定秘密保護法の施行を2日後に控え、国民の知る権利を制限し続ける安倍政権に疑義を抱く弁護士、報道関係者が思いを述べた。
はじめに、日隅一雄・情報流通促進基金理事を務める弁護士・海渡雄一氏が開会の挨拶を述べ、続いて元共同通信編集主幹の原寿雄氏が基調講演を行った。その後、TBSの「報道特集」でキャスターを務めるTVジャーナリスト・金平茂紀氏、元日本テレビ解説主幹であるジャーナリスト・倉澤治雄氏が、パネリストとして持論を述べた。また、同基金理事でNPJ代表を務める弁護士・梓澤和幸氏が、コーディネーターとしてシンポジウムの進行を担いつつ、パネリストに質問を投げかけた。
- 記事目次
- 「朝日新聞による吉田調書報道は誤報ではない」
- 吉田調書報道の根本的問題点――杜撰なチェック体制
- 「国民益」のために――安倍政権下におけるジャーナリストの覚悟
- 日本のジャーナリズムの「脆弱さ」――「開戦の日」12月8日に思う
- 無反省のままに進む原発再稼働と核軍事化
- 特定秘密保護法下におけるジャーナリズムの未来
- 苦境の中に立つ朝日新聞記者へのメッセージ
- 基調講演 原寿雄氏(元共同通信編集主幹)
- パネリスト 金平茂紀氏(TVジャーナリスト、TBS『報道特集』キャスター)、倉澤治雄氏(ジャーナリスト、元日本テレビ解説主幹)
- コーディネーター 梓澤和幸氏(弁護士、情報流通促進基金理事・NPJ代表)
- 日時 2014年12月8日(月) 18:45~
- 場所 日比谷コンベンションホール(東京都千代田区)
- 主催 日隅一雄・情報流通促進基金
- 詳細 2周年記念シンポ「朝日新聞バッシングと戦争への道 ―開戦記念日に考える」|日隅一雄・情報流通促進基金
「朝日新聞による吉田調書報道は誤報ではない」
海渡雄一弁護士「まず、朝日新聞による吉田調書報道は誤報ではない、と私は考えています。朝日新聞が記事を取り消したせいで、他のマスコミがよってたかってバッシングを始めたという経緯を見ると、取り消すべきではなかった、と言えます。バッシングの背景には、現政権の意向、いかがわしい要素を感じています。
朝日は内部通報者から調書を手に入れ、他方、読売、産経は朝日を叩くために、官邸からこの調書を手に入れました。このことの意味を、よく考えてみる必要があります。
調査報道は、はじめから真実にたどりつくものではありません。対話を通じて、真実に接近できるのみです。真実にたどりついていない者に、真実を明らかにしようとする者を批判する資格はありません」
吉田調書報道の根本的問題点――杜撰なチェック体制
原寿雄氏(以下、原・敬称略)「どうして誤報したのか、理由の一つは、慰安婦問題について確認取材していなかったということ。吉田清治氏の著書を読んだだけで、他に確認をした形跡がありません。
また、韓国有力新聞も当時同じようなことを書いていたために、信用してしまったのでしょう。(ジャーナリストは)自分の周りのジャーナリズムを信じきってしまっているところがあります。現場の記者の文章をチェックするデスクがもっと厳しくチェックするべきでした。確認の仕方が問題でした。
吉田清治さんに、『あの通りなんですね』と電話で聞いちゃったら、普通『その通りです』と答えるでしょう。にもかかわらず、『会って話したい』と言ったら断られていたんですね。それが問題です」
「国民益」のために――安倍政権下におけるジャーナリストの覚悟
原「あれだけ激しいバッシング、朝日叩きが起きました。他の政権でなく、安倍政権という右翼政権の時に、暴露されたということが大きな意味を持っています。
イラクから帰った28人の自衛隊員が自殺しています。(その自殺は)帰国後であった、と言われています。そんな事態を日本で論議していないまま、安倍内閣は集団的自衛権の行使容認をした。9条違反もいいところ、です。
バッシングが強くて、『もう調査報道はやめようか』ということが言われたこともありました。絶対そんなことをしないように、という申し入れ書を朝日新聞に出したこともあります。覚悟を持たないと、ジャーナリズムは成り立たない、ということを強調しないと。戦後レジームからの脱却とは、戦前に戻ろうというスローガンです。それにどう闘うかということを考えないといけません。
ジャーナリストも国民も、一定の覚悟をしないと。最近では、『非国民』と簡単に言われてしまう。戦時中、隣組が制度化されたが、実のところ、相互監視の制度、告げ口の制度でした。そういう事態にいつなるかわからない状況です。
また『国のため』、『国益』という言葉がよく使われるが、本当(に求められるべき)は国民益です。国家的利益ではないのです。それを批判することを遠慮してしまいがちですが、進んで『非国民』と呼ばれる覚悟が、ジャーナリストだけでなく市民も持たなければならない時代です。
産経新聞と読売新聞が徹底して朝日をバッシングしました。この2つは政府のサポーター新聞。権力批判をする朝日、毎日が分裂してしまったが、足並みをそろえるべきだとは思いません。分裂しても、覚悟をもって政権批判をしなくては。戦争が始まる前に」
日本のジャーナリズムの「脆弱さ」――「開戦の日」12月8日に思う
梓澤和幸弁護士(以下、梓澤・敬称略)「12月8日という今日は、特別な日です。開戦の日です。8月15日という終戦日だけでなく、開戦の今日を思い起こすべきだと強調したいと思います。
朝日バッシングとは、何を狙っているのでしょう。朝日新聞の内側からの変質を狙っているのです。(登壇している報道関係者たちの)皮膚がひりひりするような現場感覚とは、どのようなものでしょう。我々が覚悟すべきこととはどのようなものでしょう」
金平茂紀氏(以下、金平・敬称略)「メディアは、ほかのメディアが失敗すると、それにつけこんでしまう、ということがあります。
沖縄では、こんなことがありました。退任前の仲井真弘多知事を取材した琉球新報の新人女性記者が、ICレコーダーを取材先にうっかり置き忘れてしまったのです。それを、盗聴、無断録音をしたと県庁職員が言ったのを受けて、沖縄タイムスが悪いように書いたのです。琉球と沖縄タイムスは兄弟みたいなものなのにも関わらず、ジャーナリズムの脆弱さがここにあります。
朝日新聞の問題は、他山の石として自らの教訓として生かしていかなければ。もちろんこれは綺麗ごとです。しかし、『他人の不幸は蜜の味』と言わんばかりのバッシングを見るにつけ、『日本のジャーナリズムは所詮こんなものなのか』と思わないではいられない。
朝日新聞記者のOBがテロの対象になっているという日本の空気は、戦前的なものを感じます。新聞、言論機関は内側から崩れてくるということを、私たちは戦前に見てきました。
NYタイムスもワシントン・ポストもとんでもないことをしてきました。人間だから間違いがある。しかし、(今回の朝日新聞バッシングは)その間違いに対して、戦前的な反応が起きたということ。朝日新聞はリベラルな潮流の代表です。それが叩かれているのを見て、萎縮や自粛をしたり、シニカルになってしまうならば、思う壺です。恐ろしいことだと思います。
吉田証言、池上彰の不掲載、吉田調書の三つをまとめて記事取り消し、というのは、読者にも、記者にも不誠実。メディア・コントロールの現状をひしひし感じている人は多いと思う」
(IWJ・小田垣大志)
無反省のままに進む原発再稼働と核軍事化
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